実録!競売不動産落札後はこう動け!第二話!(競売開札の立ち会い編)

前回からの続きです。


2件目に入札状況が発表されたのは準本命の伊勢町のマンションである。E不動産のSさんと目配せを交わす。「どっちが落としても言いっこなしだぜ」そんな目線だ。昔の開札はこんなやり取りがたくさんあったのだろうか。周辺にいる人間はほとんど携帯に目を落としながら、議長の発表を聞き流している。

「適法な入札件数は、、、18件です。」

予想以上の数だ。この入札数だと買取業者だけでなく、個人も相当な数が入札しているはずだ。「個人の人がこんなに入札できるなんて、、、時代は変わったねぇ、、、」T商事のT社長が呟く。

不動産競売は昔は893屋さんやプロの買取業者しか参戦できなかった市場だ。理由は、当時は法整備が不十分で「占有者が物件を落札された後、居座り業者(反社関係者)と賃貸借契約を結び、落札した人間が使えなくする」「出てけというなら自殺するぞ、家を燃やすぞと言って脅す」なんてことを占有者が行い、落札者側に金銭的要求をする、などということがまかり通っていたからだ。また、問題解決に非常に多くの時間を要するという点もネックだった。

反社会勢力の排除が今ほど実現できていなかった昔は、競売市場というのは反社会勢力の絶好の稼ぎ場だったようだ。今でもそのイメージがある人も多く、競売物件を購入することに抵抗感を示す人もいる。

今は適切な法整備がなされ、最大級の問題が発生してもおおよそ半年程度で物件の引き渡しは確実にされる。難しい問題は強制執行に移行することで、執行官が引き渡しの段取りを取ってくれる。強制執行の費用も昔と比べると非常に安くできるようになった。

購入者の権利が法律により守られることで、個人でも安心して競売に入札することが出来るようになったのだ。


「 ~~~さん、入札金額~~~円です。~~~さん、入札金額~~~円です。 ~~~さん、入札金額~~~円です、、、」

一番下の入札金額の人間から順に呼ばれていく。一番最初の入札者は最低金額での入札だった。本物件の最低入札金額は4,317,600円だ。しかし、この物件の相場はおおよそ1500万円~1600万円。落札金額の目安は利益や、滞納管理費の支払いなどの経費分も考えて、1200万円前後となってくるだろう。最低入札金額と、落札想定金額に非常に広い剥離が発生している。

この理由は何故か、競売では不動産の最低入札価格を「再調達価格」で計算するからである。再調達価格とは「このくらいの建物だと建て直すとこのくらいの金額がかかって、そしてこれだけ築年数が建ってるから今の価値はこのくらいだよね~」という計算方法である。

この計算方法では一般の相場とかけ離れた、非常に安い金額が出やすい。昔の競売はこの「最低入札金額」付近での落札が多く(参戦人数が少なかったので、裏で談合も行われていたらしい)、どんな物件でも買えばそれだけで儲かる状態だったそうだ。

今は個人の参戦者も多くなり、ライバルが増えたことで価格の高騰が発生している。一部の業者では「競売なんて価格が高くなりすぎて、買っても利益が出ないよ」と言って競売から距離を取っている業者もいる。

私が勤めていた「株式会社カチタス(元社名:株式会社やすらぎ)」も、昔は「競売の帝王」と呼ばれ、日本全国の競売物件の9割以上に入札をしていた。しかし、競売物件では利幅が取りづらくなり、今では直接買い取りや不動産会社からの仲介買取がほとんどとなっている。

カチタスのような大きな会社が大胆に「仕入れ」のやり方を変え、テレビやラジオでのCM、インターネット広告、ガイアの夜明けなどのテレビ出演などをし、自社のブランドイメージを大幅に向上させて一般大衆に社名を広め、成長した自社の看板力を利用することで、自動的に仕入れ情報が自分達のところに流れてくるようなシステムを構築した現社長や経営陣のやり方は感嘆物である。

私が在籍していたのは、正にこの大改革が実行された、いわば企業の「成長期」であった。次から次へと新しい取り組みや、細かなルールが制定されていく、非常に忙しい・大変な時期であったが、それ故に非常に多くの学びも得ることが出来た。弊社が初年度からしっかりと利益を取り好スタートをきることができたのも、カチタスでの学びによるところが大きな部分を占めている。


さて、競売は最低入札金額と落札想定金額の剥離が発生しやすく、現在は落札金額が高騰しているわけだが、ではカチタスと同じように「どうせ落ちないのだから入札もしなくていいや」が正解なのだろうか?

私はNOだと考えている。特に個人や、中小企業の人間にとっては間違いなくNOと言えるはずだ。

カチタスレベルに「仕入れ情報が自動的にどこかからもたらされ、利益になる物件のみをチョイスしていく」ことが出来るのなら、わざわざ高騰しがちな競売に入札をする必要性はないのかもしれない。

しかし、我々のような中小零細企業だったり、個人が中古住宅再生業をおこなうと、圧倒的に「仕入れ情報」が不足する。考えれば当然だ、個人の売主の立場になって考えてみよう、大手事業者と個人事業者、どちらに物件の売却依頼をもちかけるだろうか。圧倒的に看板力で勝る大手事業者に依頼をするはずだ。売主から物件を預かった売買仲介業者だって、買取業者を探すときは「なんとなく大手事業者に話を持って行った方がなにかしらの問題があったとしても、しっかりと対処してくれそう」と考えるはずだ。

要するに、我々のような小規模事業者に回ってくる物件情報というのは、相当に良い人間関係を周辺業者と構築出来ていたり、相当に良い信頼関係を地域住民と築けていなければ、良い仕入れ情報というのは入ってないこない。基本的に我々のところに入ってくる情報は、大手事業者が買わなかったうんこ質の劣る物件ばかりということだ。

しかし、競売市場であればその大手事業者と「値段」だけの勝負ができる。通常の買取市場では中小零細企業と大企業の戦いというのは「ヤリ対飛行機」レベルで差がつくが、競売市場であれば「ヤリ対ヤリ」の勝負ができる。もちろんヤリを上手く扱うテクニックは必要になるが(適正な値付け能力など)、テクニックさえあれば対等の土俵で戦うことが出来る。そして「値段」だけで勝負ができるのなら、「経費率」が低い中小零細企業は大企業よりも有利に戦える。大企業が競売から手を引くのは自分の会社の経費率の大きさゆえに、中小零細企業よりも低い金額でしか入札が出来ないというのが大きな理由だろう。


本題からズレた部分が長くなっているが、もう1つ解説を入れておきたい。競売不動産の入札の値付けについてである。

値付けのテクニックにも種類がある。「他社の値付けを計算し、できうる限り2位と差がつかない数字で購入するテクニック」は他社の動向把握が必要だが、極めれば高い確率で落札することができるだろう。

また、「とにかく最低入札金額付近で手当たり次第にいれまくり、落ちたらラッキーテクニック」なんてのもある。実際、本物件は最低入札金額付近での入札者が7名程いた

競売物件というのは全国で年間25,000件もの物件公告がなされる。その中で買取再販が出来そうな物件のみに対象を絞り、更に自分の行動可能範囲の県の物件のみに絞っても、年間数百件の対象物件が出てくるだろう。

それらの物件に手当たり次第、最低入札金額付近で入札をするのである。大半は落ちない。むしろ年間を通して1件も落ちないこともありえるだろう。

しかし、万が一、他入札者がたまたま居なかった場合などで落ちた時(特に不景気の時期などはこれが良く起こりえる)は、数百万円の利益を一度に抜くことができるのである。

入札費用なんてものはたかが知れている。手数料と物件の現地確認をするガソリン代程度なものだ。安全度が高い物件への入札に絞れば謄本を取得する必要性もない。

数打ちゃ当たる」これも一つの有効な戦略なのだ。


「 ~~~さん、入札金額~~~円です。~~~さん、入札金額~~~円です。 株式会社ハウスメディアさん、入札金額11,688,888円です、、、」

議長の手元にまだ入札書が何枚か残る段階で自社の名前が呼ばれる。つまりそれは、まだ上位の入札者がいる、ということだ。E不動産の名前はまだ呼ばれていない。Sさんを見る。Sさんがこちらを「残念だけど、これも勝負の世界なのよね」という目で見ている。Sさんはちょっとオカマっぽいところがあるが良い人だ。格闘道場に通ったり、音楽のライブなどにも出演したりと多趣味で、自分の世界を持っているタイプの人だ。地元足利に帰ってきた時に一番最初に知り合った不動産関係の人間でもある。議長が持っている入札書はあと2枚。つまりその内1枚はE不動産の入札書だ。どのみち自分が落札できなかったのならE不動産に落札してほしい、そんな気持ちで議長が次の入札書を読み上げるのを待つ。

「次の適法な入札者は、、、Kハウジング、入札金額は1218万円です。」

Sさんを見る。Sさんがこちらを「おっしゃー!落ちる確率そこまで高くないと思ってたけど、在庫1件ゲットだぜ!」という目で見ている。Sさんは非常に端正な顔つきをしている。スポーツや音楽で鍛えられた身体は非常にスマートだ。今日の格好は4月なのにニット帽とマスクという、ちょっと不審者に間違われそうな恰好だった。Oくんに挨拶をしたときに、一瞬横に座っている人がSさんだと気付かずスルーしてしまったくらいに、誰だか分からない程の不審者チックだった。しかしマスクを取った顔つきはやはりイケメンだ。ここまで書いて思ったが、私は何を書いているのだろう?久しぶりに長文を書いているが、どうやら筆の乗りが良いらしい。

スマートでイケメンなSさん、写真のような外国人俳優に似ている顔つきをしている

「次の適法な入札者は、E不動産、入札金額は1224万円です。」

最後にE不動産の名前が呼ばれ、落札が確定した。落札金額1224万円の値付けの妥当性についてだが、E不動産なら問題なく利益をしっかりと取って売っていけるのだろうと感じた。

不動産の「仕入れ」の際には、落札金額に加え「不動産取得税・登録免許税・マンションの場合は滞納管理費」が経費として発生する。(マンションの滞納管理費は人間ではなく、部屋ごとに属するので、新規に購入した人間に滞納の請求がくる法律となっている。)

今回の場合、取得税がおおよそ25万円、登録免許税が20万円、滞納管理費が30万円、合計で75万円の経費が確定している。落札金額と合わせると合計約1300万円。恐らく、これにリフォーム費用60万円程度をかけて、利益を280万円ぐらい乗せた、1680万円(税込み)という販売金額になるはずだ。

私の場合は販売金額の設定を1580万円、利益を250万円として考えていたので、この設定金額の差が勝敗を分けたわけだ。

E不動産は足利で有数の売買実績を誇り、抱えている顧客数も多い。私の感覚だと1680万円の値付けは少しだけ高い気もするのだが、E不動産が販売するのなら看板力も手伝い、手早く捌くことも可能なのだろう。

看板力」、独立したばかりの小規模事業者にとって、この概念が敵として立ちはだかることは多い。大手事業者に在籍していた時はなんでもなかった簡単な話が、独立した途端に調整が上手くいかなくなる、なんてことが多々とある。今までの自分は「看板力」のおかげで仕事が出来ていた、仕事が出来る人間だと思えていた、そう実感する。

独立した以上は、「看板力」ではなく「自分力」で生き残っていかなくてはならないのだ。ライバルと競り負けたことを一々悔やんでいる暇はない。

残りの入札した2件は本命ではないが、どちらもかなり安く入札しているので万一落ちれば大きな利益になり得る。議長が次の案件の入札状況を纏めている間に気合を入れなおし、そして、E不動産が落札したマンションの入札金額をしっかりと手帳に記した。

次、このマンションが出た時は必ず勝つ。。。

経営者は負けず嫌いでないとやっていけないのだ。

大変長くなってしまいました、、、(汗) 次回、競売立ち合い編!完結!(立ち合い編だけで6000文字も既に書いてしまった…)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です